FitEarについて

プロフェッショナルユーザーインタビュー

Professinonal User's Interview

サウンドエンジニア

佐藤 公一さん

プロフィール 

1965年9月29日生まれ 福岡県出身 
株式会社アコースティック所属
 
インイヤーモニター黎明期からシステムに接し、2004年、GOSPELLERS「ゴスペラーズ坂ツアー2004 ”号泣”」よりインイヤーモニターによる音響を開始。
数多くの現場オペレーションを通じてミュージシャンサイドに立ったモニタリングの方法論を独自に構築。ミュージシャンからの厚い信頼を得るとともに、より快適で自然な音を目指し、更なる進化を模索する。
 

主なオペレーションアーティスト&イベント

ゴスペラーズ、木村カエラ、Heavenstamp、sugizo、BO GUMBOS、忌野清志朗 他
SOUL POWER SUMMIT 他

コンサートにおけるモニターとサウンドエンジニアの役割

コンサートにおいて音響を担当するセクションは、PA機材を通して会場の観客に音楽を伝える「ハウス」と、ステージ上のミュージシャンに音を伝える「モニター」に分かれます。この中でモニターエンジニアは、演奏をする上で参考となる音を提供し、ミュージシャンを手助けするのが仕事です。この「手助け」とはなにか。それは、「演奏しやすい環境をつくる」事に他なりません。
 
「演奏しやすい」というイメージは人により異なります。担当したミュージシャンそれぞれが持つ「好み」や「注意している事」の違いを正しく理解し、モニタースピーカーやインイヤーモニターシステム(以後IEM)を使ってミュージシャンの演奏をサポートする。これがモニターエンジニアの仕事だと考えています。
 
また、ミュージシャンの置かれた状況を理解して「手助け」をすることも重要です。例えば、「こなれた曲」をやるのと「新曲」を演奏するのでは、ミュージシャンの精神状態は全く異なります。ミュージシャンが緊張しているのか、リラックスしているか。緊張している場合は、どんな点に気をつけるのか、何か頼りにしているものはないかなどに気をつけながらサポートする事が大事です。
 
ミュージシャンに言われたまま、何かのボリュームを上げたり下げたりするという単純な作業からは、理想的なモニター環境は生まれません。専門家の立場から、ミュージシャンと意思疎通を図りながら、より快適で安心できる環境を築くように心がけています。
 

インイヤーモニターシステムの運用

コンサートでは一般的にコロガシ(ウェッジ)やサイドフィルといったモニタースピーカーが用いられ、ステージ上にいるミュージシャンはこれらのスピーカーから発せられる音声を演奏の参考としています。
 
大きな会場で演奏する場合、コロガシから何かモニター音を返す前に、すでに多くのPAスピーカーによる会場からの反射音があります。それに負けないようにモニタースピーカーの音量を上げると、今度はステージの音が濁り、PAに悪影響をあたえるばかりか、演奏も非常にやりにくくなるという事がよくあります。
 
例えば歌手にとってドラムのシンバルやアンプの音、会場の反射音、観客の歓声などは、歌手自身のモニターにとって邪魔な音になりがちです。また多くの歌手は、ある程度の音量から音程が取りにくくなる傾向にあります。
 
一方IEMは、こうした「外部の音」からの影響を受けにくく、欲しい音、若しくは好みのバランスを選び、それを集中して聞く事ができます。これはウェッジスピーカーとIEMの最大の違いで、過去のPAの歴史の中でも画期的な出来事です。
 
IEMならば、リズムが大切な時には自分だけクリックを聞いたりすることもできます。シーケンスが回ってない場合は、モニターエンジニアがハイハットの音量を上げるといった配慮をするだけで、かなりリズムはとりやすくなるはずです。またメロディーに注意したい場合は、歌手が音程の目安にしているキーボードやギターの音に関しモニターエンジニアがリアルタイムにフォローすれば、音程を見失う事ははるかに少なくなります。
 
現在のコンサートでは演奏のためだけではなく、演出上舞台装置や照明などとも同期を取るため、歌手だけではなくバンドメンバー全体がクリックを聞く事も多くなってきています。ドラムは生音が大きく、シンバルなど自身の演奏音により高域が難聴になりやすいという問題がありますが、IEMでは耳を遮蔽した上で必要な音量でモニターすることができるため、適切なIEM運用で難聴リスクを回避することができます。その他のパートについても、「自分の立ち位置がとなりのメンバーのアンプに近く演奏しにくい」といった訴えに対し、非常に効果的な対策になります。
 
IEMの利用は会場設営の面でもメリットがあります。大きな会場で広い範囲のアクションエリアがある場合、今まではその場所全域にモニタースピーカーを仕込まなければならず、非常に手間がかかる作業でしたが、IEMを使用する事で機材、作業時間はかなり軽減されます。
 
人間は普段、自分の周りに存在するいろいろな音から、左右の耳が協調し無意識のうちに自分の欲しい音をピックアップして判断しています。IEMオペレーションをモノラルで行った場合、音の広がりがなくなるので非常に不自然に聞こえてきます。また、混濁した状況の中で音を拾い集めようとするためか、非常に疲れます。それが何かの「修行」であるならば止めませんが(笑)、我々エンジニアはより快適なIEMの環境をミュージシャンに提供すべきであり、そのためにもIEMのシステムはステレオである事が非常に大切です。
 
コスト面では確かにイヤフォン1つが十何万もするのがどうか、という考えはありますが、我々プロフェッショナルの使用するモニタースピーカーはその何倍もします。パワーアンプもいれるとハイクラスのモニタースピーカーとアンプでワンセット50万円位はするため、考え方によっては経済的と言えるかも知れません。

イヤーモニターは「手段」であり「目的」ではない

イヤモニの危険な面は、携わるモニターエンジニアがミュージシャンの事をちゃんと理解し、適切な運用が行われていないと悲惨な結果に終わる事です。
 
IEMは確かにひとつの手段ですが、無くても問題なく演奏できるならそれが一番だと今でも思っています。しかし現実にはそうならないのは、ミュージシャンが演奏しにくい状況が存在するからです。
 
それをどうやって解決していくかがエンジニアとして大切な事であって、IEMはあくまで、ひとつのツールにすぎません。
 
また、「大きな音で聞かないように心がける」事も大変重要です。モニター卓のマスターに「これ以上はダメよ」という意味と、不慮の事故(ラインのトラブル等によるものすごく大きなノイズ)への対策としてリミッターを設定することが欠かせません。
 
いくら音程やリズムがとりやすいからといって、難聴になるならIEMはしない方がいいのです。

過去に学ぶ。コミュニケーションを深める。

過去に偉大なミュージシャンやエンジニアはIEMはもちろんグラフィックイコライザーもなく、非力なモニターやPAシステムですばらしいコンサートを行ってきました。では、なぜそういう事が出来たか、という事を参考にすべきだと考えています。
 
現在、音響システムや環境が複雑となり、それに付随するいろいろな問題が発生します。そんな時、エンジニアの都合だけで考えるのではなく、ミュージシャンの立場になり、改めて問題を見直せば「解決すべき事は何か」が判るはずです。
 
我々にとって一番大事な目標は、ミュージシャンの置かれた状況を考えて、現場に存在する諸問題を解決し、安心して演奏してもらう事です。そのためにはミュージシャンとエンジニアのコミニュケーションは不可欠です。
 
もしあなたがミュージシャンで、使用しているIEMが何かしっくり行かない事があるとすれば、どんどんモニターエンジニアと話をしてリクエストを言ったり、感じた事を伝えましょう。そうやっていくうちに、モニターエンジニアがあなたの好みや考え方を学習するはずです。それでだめな場合は私に連絡ください(笑)。

今後イヤーモニターに期待すること

今後IEMにに期待する事ですが、ハードウェアとしてはワイアレスの場合、電波的に安定する事につきます。エンジニアリングに関しては、とにかく「自然」に近づく事です。
 
先ほども言いましたが、人間は本来「多くの音の中から欲しい音に集中してそれだけを聞く」という素晴らしい機能を身に付けています。IEMはあくまでもそのイメージをモニター卓を通してバランスを作っているだけです。
 
IEMでモニターエンジニアをやればやるほど、そのイメージが人によって違うという事を知りました。その人にとっての「自然」に近づければ幸いです。

FitEar ProAudio

最後にミュージシャンの耳に納まる「イヤモニ」について触れたいと思います。IEMシステム導入時には既製品のShure社「E5」から出発し、その後カスタム製品へ移行、主にUltimate Ears社「ue-10 pro」を使用してきました。「ue-11 pro」の音も聞きましたが、これを読まれている方の注目は、なんと言ってもFitEar ProAudioの音質が他社製品と比較するとどうか、という点だと思います。
 
コンサート会場でIEMのイヤフォンに求められる物は、イヤフォンの音質、装着感、耐久性につきます。最初に社長の須山さんと会ってお話しをした時に「よかったら試して欲しい」といって渡されたイヤフォンは、LOWが強いものでした(CD等を聞くのには楽しいのですが)。正直に「これではモニターはやりにくい」と言ったところ、すぐに新しくプロトタイプ作って来てくれて、それを何度も繰り返しました。言葉で伝えるのが難しい部分もあり、実際の現場でも聞いてもらいましたが、そこから格段とよくなり、今の製品の334は他社と比べ、まったく遜色ない製品です。
 
好みの問題ではありますが、どれが好きかといわれたら断然334です(クマガイさんすいません、笑)。CDなどを聞いても非常に楽しむことができ、高級オーディオばりの音質も魅力です。実際に会場に行って聞けばわかりますが、高域のレスポンス、低域の情報量や「コシ」が、あまり音量を上げなくても聞き取りやすいと思います。
 
また、他に素晴らしいのが「つけごこち」です。歌手がIEMを使用して歌う際、時として問題になるのは顎の動きで生じる「隙間」です。これができると、音が漏れ低域が減衰する(外部の音も入ってくる)ので、歌手本人は非常に困惑します。
 
最初に装着した時はきつく感じると思いますが、隙間ができないというのは実はすごい事なのです。隙間に悩んでいる(若しくはストレスを感じている)人は試せば判ります。FitEar ProAudioは補聴器製造がベースにあり、今でも年間1万個(!)の補聴器用オーダー耳栓を作っているそうなので、この装着感にはうなずけます。
 
また意外に知られていないのが「イヤフォンは壊れる」という事です。イヤモニは落とすと破損しやすく、ケーブルも断線することがあります。過去に本番5分前、マネージャーから「イヤフォンが割れた」と聞かされた時は、もう帰ろうかと思いました(笑)。
 
FitEar ProAudioのオフィスは東京の銀座にあります。例えば本番を控え日が無い時にFitEar ProAudioのイヤフォンにトラブルが生じても、平日であれば速やかに対応してもらえます。また、日本語でいろいろな相談にのってもらえるのは大きなアドバンテージです。
 
今でも年に何回かはプロトタイプを持って私の現場で「試聴」していかれますが、そうやって現場主義の観点からFitEar ProAudioが出来上がっているのは素晴らしい事だと思います。