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プロフェッショナルユーザーインタビュー

Professinonal User's Interview

ギタリスト

古川 望さん

プロフィール 

1959年5月14日生まれ 大阪府出身 
1982年、「羅麗若(ラレイニャ)」でコロムビアからデビュー。 1984年上京、今田勝NOWINで「ミント・ブリーズ」をリリース。
翌'85年に2枚目、「Rainbow Island」リリース。この頃より渡辺美里や本田美奈子などのバッキングミュージシャンも始める。  '89年、元カシオペアの神保彰、櫻井哲夫らと「SHAMBARA」を結成。ビジュアルプロデューサーに山本寛斎らを迎えアルバム「Shambara」をリリース。 この頃よりStudio Musicianとしての活動も活発になり始める。 
浜田省吾、中島みゆき、吉田拓郎、高橋真梨子、谷村新司、ハイ・ファイ・セット、kiroro、SPEED、柴咲コウ、Misia、ASKA、浜崎あゆみ、松田聖子、松山千春、坂本冬美、島谷ひとみ、辛島美登里、平原綾香、徳永英明、沢田研二、熊木杏里、鬼束ちひろ、福山雅治、九州男、鈴木雅之、w-inds.、リュ・シウォン、melody、など多数のアーティストのレコーディングやライヴに参加。 
また個人の活動としては兄、古川初穂との「古川兄弟」で 2002年「古川兄弟」、2004年に「Spinners」の2枚のアルバムをリリース。
ベーシストの富倉安生、キーボードの坂本昌之らとともに「Magritte Voice」を2002年にリリース。
サックス奏者の古村敏比古との「古川村」で 2003年「THE FURU ALBUM」、2005年「Study In The Park」、 2007年にカバーアルバム「Hippopop」をリリースしている。 2010年2月、4th Album「快気春眠玉手箱」発売。

「夜会」の世界観を大切に・同一環境での長期公演から導入スタート

カスタムイヤーモニター(以下イヤモニ)は2008年、中島みゆきさんの「夜会」VOL.15〜夜物語〜元祖・今晩屋より使い始めました。
一般的なライブとは異なり、「夜会」は中島みゆきさんの音楽性と世界観を、演劇的なアプローチを取り込み表現する公演です。その演出上、また客席への配慮から、音響条件としてステージ上の音を抑制したいというメンバー、音響スタッフ共通のニーズがありました。
長年ウェッジスピーカーでのモニタリングに慣れており、当初はイヤモニの使用に不安もありましたが、赤坂ACTシアターでの全22回という公演であったため、長期間に渡り同一環境で新しいモニター方法のテスト、運用の検討をすることができる機会としてイヤモニを導入することとなりました。

ウェッジスピーカーでの制約から開放

夜会で使用を開始したイヤモニですが、一回目のリハーサルから心配していたような問題も発生せず、非常にやりやすくなりました。
これまでのウェッジスピーカーによるモニターでは、プレイヤーに対するモニターミックスが1チャンネルのため、どうしても音は飽和しやすくなります。そのためバンド全体の音を聞くのではなく、ドラム、ベース、ピアノといったように、演奏のため必要最小限のパートに絞ることで対応していました。
使用したイヤモニではモニターミックスが左右2チャンネルになったことで、音像の再現性が高く、ヘッドホンと比較してもより定位が明確になりました。バイオリンやコーラスなど、従来はどうしても割愛せざるを得なかった上モノも、本来の形でモニターミックスに含めることができるようになり、楽曲の全体像が把握しやすくなりました。
大規模なライブでは2009年の吉田拓郎さん「Have A Nice Day LIVE 2009」でイヤモニを使用しています。ツアーメンバーが非常に多い豪華な構成でしたが、そうした環境でもメンバー全体の音を確認することができ、明確な音像の中演奏することができました。

会場やバンド構成を問わない安定したモニタリング環境

大型の会場、特にホールでは、建物による音の反射がウェッジスピーカーからのモニター音をマスキングしてしまう、タイミングをずれさせてしまうなど、モニターの大きな阻害要因になります。
それ以外でも、ドラムに近い立ち位置ならばその生音が取りやすいためモニターしやすいが、離れたポジションでは直接的な音情報が少なくなりモニター環境が悪くなるといったように、会場規模やステージ構成、パートの配置による音響条件の差が少なからずありました。
イヤモニでは装着による遮蔽性から、モニター音のマスキングや音の反射によるモニター音の遅延という問題が無くなります。これはモニター音量の抑制による耳の負担低減とともに、会場やステージの状況を問わず、安定した環境でモニタリングすることができるというメリットにつながります。
イヤモニを使用する場合、ステージ上の演奏音やオーディエンスからの音情報を生で聞くわけではないため、演奏においてクールに成り過ぎるのではと感じてもいましたが、実際には観客の皆さんが盛り上がってくる様子など視覚的な情報に加え、アンビエントマイクなどからのフィードバックもあり、思ったほどの孤立感や違和感は少なく、音楽的な勢いや生々しさが失われる感じもありませんでした。
現在は色々なアーティストのライヴにおいて、モニターエンジニアの方とコミュニケーションを取りながら、自分のギター左右2チャンネル、オケ全体の左右2チャンネルにクリック1チャンネルの計5チャンネルを個人用のミキサーに戻してもらい、最終的なバランスの調整を自ら適宜行っています。

ギタリストとしてのメリット

エレクトリックギターはギターアンプの特性上、ある程度以上の音圧を前提とした音作りが必要です。しかしこれを基準にウェッジスピーカーでモニター環境を構築しようとすると、全体の音圧はどんどん上昇することになります。イヤーモニターを使用しても、ギターアンプ自体の出力を抑制する訳ではありませんが、モニターは静音状態を基準に設定することができるため、トータルでの出力抑制が可能になります。
ライブにおいては、その音楽性に合わせたサウンドをギターアンプからの出力をベースに作り込みますが、実際に観客の方に届けられる音はアンプ直の音ではなく、マイク、PAを経由します。ギターアンプとホールの音をに近づける上で、アンプに対するマイキングは非常に重要となりますが、こうした際にもイヤモニを利用しステージ上とハウスの音を比較することで、客観的な情報とそれに基づいたマイキングメソッドが得られています。
現在のライブではコンピューターシステム、照明他ステージ機材との同期は欠かせないものになっています。キューやリズムキープのためのクリックを外に出す訳にはいかないため、以前はウェッジスピーカーからのモニターとは別に、片耳にイヤホンを装着するなどしてクリックを取っていました。しかし既製のイヤホンでは音漏れの発生、クリック音へのマスキングの問題があり、状況に応じてクリック音量を上げ下げして調整する必要がありました。
イヤモニではこうした必要が無くなったことに加え、特にクリックの重要性が上がるアコースティック構成のように静かな演奏において、過度にクリック音量を上げることなく、正確なリズムを取る事ができます。
これまでアコースティックギターの演奏時は、多くの場合マイクで集音された音を目の前のウェッジスピーカーからモニターするというスタイルでしたが、どうしてもハウリングのリスクが存在しました。これはアコースティックギター+マイクのケースだけでなくライン接続のエレアコでも同様で、サウンドホールを塞ぐなどの対策が必要でした。イヤモニは大規模なライブ/電気楽器向けというイメージもありますが、ギタリスト、特にアコースティックギターを弾かれることが多い方にとっては、このハウリングの防止という点でメリットが大きいかも知れません。
最近では現場でのイヤモニの利用が広がり、ギターパートに限らず、自分のまわりでは使われていない方の方が少なくなりつつあります。技術的な面でも、モニターエンジニアの方を始め、音響スタッフとの間にコミュニケーション上の問題はありません。特にテレビの仕事ではイヤモニ使用が前提という傾向にあり、イヤモニのスムーズな運用ができているようです。
遮蔽性や安定した装着はイヤモニに欠かせない要素ではありますが、今後の希望として、容易に脱着が可能なタイプも欲しいところです。あるいはイヤモニを装着したまま、ワンタッチの切り替えで周囲との会話ができるシステムが開発されるとうれしいですね。